茶道具の名品が鑑賞できる美術館
茶道具の名品が鑑賞できる美術館
美術品として素晴らしい茶道具を所蔵している美術館は各地にありますが、茶道具の名品を拝見できる美術館と「数寄者」には深い関係があります。
数寄者は風流人、特に茶の湯を趣味とする人を指します。明治時代以後、茶の湯に興味を持つようになった財界・政界の富裕層は近代数寄者と呼ばれます。
近代数寄者たちは、従来の茶の湯にこだわらず、日本美術という観点から茶の湯の名物道具を積極的に集め、豊かで豪華な茶の湯をつくりあげました。
代表的な数寄者として、三井物産の創始者である鈍翁・益田孝がいます。鈍翁は、国宝級の数々の美術工芸品を蒐集し、これを展観しつつ多くの人々を集めて茶会を開きました。鈍翁の始めた茶会を大師会といい、今日までも引き継がれています。
また、名物茶道具を貪欲に蒐集し、自ら美術館を建設してコレクションを収めた近代数寄者には、根津青山、原三渓、畠山即翁らがいます。
よほどの機会がなければ目にすることのできなかった名物の茶道具が数寄者のつくった美術館に展示され、わずかな入館料で自由にみることができるようになり、茶の湯を趣味として近代的な国民の教養に変貌させることに成功したともいえます。
主な数寄者には、以下の人物があげられます。
世外・井上馨
幕末期に長州藩士として倒幕運動に参加。明治維新後は大蔵相、外相、内相を歴任し、元老となる。茶道具蒐集に熱心で「桃鳩図」など多数所持。
露香・平瀬亀之輔
大阪有数の両替商の七代目で茶道具蒐集に努め、その質・量は傾いた身代を掬うため二度も道具売立を行えるほどであった。
鈍翁・益田孝
三井物産初代社長。大師会を主宰し、多くの政財界人に古美術品乾燥の場として茶会を認識させた。所蔵品は質・量ともに第一を誇る。
香雪・村山龍平
朝日新聞社創始者の一人。関西の数奇者の貝、十八会等に参加。蒐集品は香雪美術館において公開される。
青山・根津嘉一郎
東武鉄道を中心に各種の事業を経営。平瀬家より「花白河蒔絵硯箱」を空前の値で入手したことでも知られる。蒐集した東洋古美術品は根津美術館に収蔵。
鶴翁・嘉納治兵衛
灘の酒造家。中国の銅器・陶磁器の蒐集に努め、古稀を記念して白鶴美術館を開設、所蔵品を公開した。
春翆・水三友吉左衛門
公家の徳大寺より住友家に入る。裏千家の茶を学び、十八会の会員として活躍。
三渓・原富太郎
横浜の豪商原家に入り、生糸問屋、銀行を経営。古美術品の蒐集に努め、大師会の重鎮となる。三渓園はその邸址。
半泥子・川喜田久太夫
三重津の素封家川喜田家十六代として銀行を経営。茶を嗜むかたわら、千歳山窯・広永窯を開き、独自の作風の茶碗を数多く焼く。
逸翁・小林一三
阪急電鉄の育成、宝塚歌劇の創設など幅広い財界活動を行う。「大乗茶道記」「新茶道」などに独自な茶道論を展開。没後に、逸翁美術館が開館。
即翁・畠山一清
荏原製作所を設立。茶は裏千家を学び、大師会・光悦会の主要な会員となる。良質な茶会記を残し、蒐集品を畠山記念館で公開した。
近代数寄者と美術館
藤田伝三郎…藤田美術館(大阪)曜変天目茶碗、紙本墨画柴門新月図、耳付花生(寿老人)など所蔵。
村山龍平…香雪美術館(神戸) 黒楽茶碗 銘古狐、利休丸壺茶入、名物手井戸茶碗 燕庵井戸など所蔵。
根津嘉一郎…根津美術館(東京)青井戸茶碗 銘 柴田、瀬戸丸壺茶入 銘 相坂、鼠志野茶碗 銘 山の端など所蔵。
嘉納治兵衛…白鶴美術館(神戸)狩野元信筆 紙本金地著色四季花鳥図 、金襴手獅子牡丹唐草文八角大壺など所蔵。
小林一三…逸翁美術館(大阪)与謝蕪村筆 奥の細道画巻、野々村仁清作 丸壼茶入など所蔵。
野村徳七…野村美術館(京都)和漢朗詠集断簡(多賀切)、清拙正澄墨蹟など所蔵。
畠山一清…畠山記念館(東京)絹本著色林檎花図、本阿弥光悦作 楽焼赤茶碗 雪峯など所蔵。
五島慶太…五島美術館(東京)金襴手透彫花鳥文仙盞瓶、鼠志野亀甲文茶碗など所蔵。
山口吉郎兵衛…滴翠美術館(兵庫)赤織部沓形茶碗、仁清作 色絵菊水図水指など所蔵。
その他の茶道具の名品がみらえる美術館
本間美術館(山形県)
五島美術館(東京都)
三井記念美術館(東京都)
サンリツ服部美術館(長野県)
桑山美術館(愛知県)
泉屋博古館(京都府)
大西清右衛門美術館(京都府)
田部美術館(島根県) 等