火入(ひいれ)・灰吹(はいふき)・莨入(たばこいれ)・煙管(きせる)・
香箸(こうばし)・などの喫煙具一式を収めておく道具です。
茶事に置いては薄茶が始める前に持ち出されます。
濃茶席と懐石中には出しませんが、
大寄せの茶会では最初から正客の席に置かれます。
喫煙具はお気楽にという意味合いで出される莨盆は
濃茶の席での使用はせず、寄付待合・腰掛待合・薄茶席に
用いられるのが一般的であったようです。
喫煙習慣は古くからあったようで、千利休の頃から茶室にも浸透していたと、
思われますが、千利休や古田織部時代の好物に喫煙具はあまり見られません。
江戸時代に入り千宗旦や小堀遠州、金森宗和あたりから好物の莨盆が数多く見られます。
片桐石州や山田旨偏らの煙草好きは有名で、
宗偏流では懐石の最中にも莨盆を持ち出す場合もあるそうです。
莨盆・煙草盆には火入と灰吹が入れられています。
火入は元々、香炉の小振りの物や深向付を見立てて使用したのが始まりと言われています。
主に陶磁器の物を用いて煙草に火を付ける際の火種として利用します。
灰吹は又の名前を吐月峰と云いいます。この由来は静岡市にある山「吐月峰」に
連歌師・宗長(そうちょう、1448~1532年)という人物が吐月峰柴屋軒を開き
自らから移植した竹を用いて竹細工を施し、灰吹きに吐月峰の焼印をして売った為、
吐月峰といえば灰吹というようになったといわれています。
煙草盆の主な種類
:唐物・・中国などで作られた品物の総称で、日本からもっとも近く、古くから交流のあった外国が加羅(から)であった事から、外国で作られた作品は「加羅」と呼ばれました。
この言葉が語源となり8世紀頃には唐という言葉になったと伝えられています。
:和物・・日本製、日本風という意味で和物と付けられました。
昔から古き良き時代の歴史を重んじてきた日本、和の精神を追求してきたからこそ付けられた名前だと言えます。
細かい種類
:手提げ煙草盆・・煙草盆は煙管や火入など個々に持っていた物を盆などにまとめて乗せた事から煙草盆が誕生し、それに手提げを付けた作品が手提げ煙草盆となりました。
手提げ煙草盆が出来る以前は室内で煙草盆を使い、持ち運びも不便でしたが手提げが付く事により外で煙草道具一式を持ち出せるようになりました。
:風覆手付煙草盆・・手提げ煙草盆が誕生した事により、持ち運びが楽になったのですが、外で使用する際風が強いと灰が飛んだり、火がすぐに消えてしまうなど、とても不便だったと言います。そこで考案されたのが風覆手付煙草盆と呼ばれる物で、これにより風で灰が飛ぶなどの問題が解決されました。
:寝覚形煙草盆・・今までの煙草盆は盆に手付が付いたような簡易的な形状でしたが、寝覚形煙草盆は小物が入れられるような引き出しが付いたお品物で、枕元などに置いて使用していたと言われています。
:自然木煙草盆・・ユニークな形が特徴の作品で、凝った細工などはせず木の形をそのまま活かした煙草盆となっています。侘び寂びを感じさせる自然木煙草盆は、江戸後期に作られたと言われています。
主な素材や細工
・唐物
:蒟醤・・漆芸加飾技法の一つで、もとはタイやミャンマーなどで行われていた一般的な技法が日本に伝わったとされています。
一度漆を塗った表面に剣と呼ばれる特殊な彫刻刀で模様を彫り、凹んだ所に色漆を埋めて研ぎ出し、磨き仕上げた作品です。
また、タイやミャンマーで嗜好品とされていたキンマークが漆の容器に入り日本に伝わった事から、キンマークという言葉が訛り蒟醤(きんま)と呼ばれるようになりました。
:青貝・・螺鈿などの細工に用いる為の材料で、夜光貝やオウムガイなどの事を指します。
光の当たり具合などにより、虹色などに輝く繊細な煌きは青貝にしか出せない特徴となっています。
青貝を用いて作られた螺鈿細工の作品は、見る人を魅了させる美しさを持っています。
:漆器・・漆を塗る工芸品の総称で、日用品や高級品など様々な作品に用いられている技法です。今では多くの漆器が作られていますが、漆を塗る事により強度が増す為に始められたとも言われています。
:和物
:唐木・・堅い材質と美しい光沢から建築や仏壇などで重宝される素材で、遣唐使が中国に多く出入りしていた頃に中国を経て輸入された事から、唐木と呼ばれました。
また、正倉院宝物には唐木が多く輸入されていた頃の工芸品が残されています。
:一閑張・・千家十職の飛来一閑が中国から日本に亡命した際に伝えて広めた技術なので一閑張という名前になったという説があります。
日本の伝統工芸品の一種で、竹や木で組んだ骨組みに和紙を何度も貼り重ねて形を作り、その上に柿渋や漆を塗り色を付けたのが特徴となっています。