炉の炉壇の上にかける木枠の事を炉縁といいます。
炉縁は大きく分けると木地と塗の物に分かれます。
木地の炉縁は普通、小間に用いられます。
初期の頃、木地の炉縁は使う度に水洗いをしていたので、
「洗い縁」ともいわれ、
水に強い沢栗材が主に用いられていました。
他の材木としては桑、桜、松、杉、桐、紅梅、
黒柿、縞柿、鉄刀木、花梨などの唐木、
社寺の古材を利用した物なども使用していました。
塗の炉縁は炉縁に漆を塗り蒔絵を施したものと無地の物に分かれます。
塗の炉縁は一般的に広間(四畳半以上)で使用し、
桧材に真塗を施した物を正式としています。
塗りの炉縁には荒目、布摺、青漆、朱塗、掻合塗、春慶塗、溜塗、真塗などがあり、
多種多様の蒔絵を好みにより施します。
炉縁の種類や漆の技法
・炉縁の材質
:沢栗・・炉縁が作られた初期の頃、使ったら洗えるように組み立て式の物が多く、また何度も洗ったりするので洗い炉縁とも呼ばれ、水に強い木材という事から沢栗が選ばれたと言われています。
:黒柿・・神秘の銘木と呼ばれている黒柿は、千三百年も昔から貴重な物として大切に保管されてきました。その昔、権力者や富裕者しか手にする事が出来ず、一般人には手が届かない代物だったそうです。数百年の年月を超えた柿の木から作り出される黒柿炉縁は、とても稀少価値の高いお品物となります。
:桑・・桑と聞いて思い浮かべるのは蚕の餌として葉っぱをよく取っていた事を思い出します。桑の葉っぱは蚕の餌、桑の実は果実酒の原料、桑の木は工芸用と様々な用途に用いられます。また、桑の木はかなり堅く磨くと綺麗な黄色をしていて、杖の素材としても用いられました。
:桜・・春の季節には欠かせない日本の文化には欠かせない植物の桜ですが、木の方は堅く冷たく湿気に強いのが特徴の為、フローリングや彫刻などにも用いられる事ができています。
また、桜の樹皮はつやがあり美しい事から棗や茶筒などの小物入として加工されました。
:紅梅・・桜や桃の花と同様日本には欠かせない植物の梅は、松竹梅のめでたい植物の中にも入る有名な樹木です。
梅の実はジャムや梅干し、梅酒など様々な食材などに加工され、私達の食卓に並び、木は心の部分が紅色で美しい事から工芸品などに加工される事が多くあります。
:松・・松竹梅でもお馴染み、縁起の良い樹木として有名な松は、主に木造建築などに用いられます。しかし、杉やヒノキなどに比べると耐腐朽性に劣るとされ使い所を選ばなければいけない事が難点となります。
:桐・・伝統的で神聖な木として重宝されてきた桐は家紋や勲章のデザインにも用いられてきました。
材質は日本国内で取れる木材の中で最も軽く、湿気を通さず割れや狂いが少ないと言った特徴があり、古くから高級木材として下駄や琴などの素材として使われ、特に桐で作られた箪笥は女の子の嫁入り道具にする習慣があったと言われています。
:杉・・日本固有種の杉は、本州北端から屋久島まで自生している植物です。
割裂性がある為、角材から板材まで作る事が可能で、曲物などにも使用されてきました。
住宅の柱材や構造用合板、集成材、日本酒の香り付けなど昔から重要な木材として用いられています。
:鉄刀木(たがやさん)・・代表的な銘木である鉄刀木はインドネシアや東南アジアなどが原産となっています。材質は堅く耐久性があり重くて堅い様子が鉄の刀のようだという事から鉄刀木となりましたが明確な詳細は不明です。
薬品で脱色し明るい色にしてから使用し、主に家具や仏壇、ステッキなどに使用され、加工が少し難しい事から装飾的な部分に使われる事が多いです。また、腐りにくい事から家が長く続くという意味を込めて床柱に使用されます。
:花梨・・熱帯雨林に自生する植物で古くから唐木細工に使われる銘木として知られています。心の部分は黄色がかった紅褐色から桃色がかった暗褐色が特徴で、家具や仏壇、装飾などに使用されます。
・塗の種類
:真塗・・漆塗技法の一種で、黒漆を塗って作品を製作します。
とてもシンプルな作品の為、一見簡単な技法に思えますがゴミやほこり、筆の跡などがつくと作品が台無しになってしまう為塗師は細心の注意を図りながら製作にあたります。
その為シンプルな作品の中にも塗師の技量が見える作品となります。
:溜塗・・始めに塗った漆の上に透き漆を乗せた技法で、下地の漆が透けるように作られています。透明な漆ではなく少し茶色がかった漆を乗せているので下地の色が落ち着いた色合いとなります。
:柿合塗・・柿渋と呼ばれる渋柿の果実から絞りとった汁を醗酵させ濾して出来た液を下地として塗りその上に漆を塗るという技法になります。
多くの漆芸作品はツルツルした表面が特徴ですが、柿合塗は木目が見えている物が特徴です。
:朱塗・・良く見られる漆塗の一種で、美しい朱色が特徴の作品です。
朱塗の美しい朱色は硫化水銀から作られたベンガラと呼ばれる赤顔料を混ぜて作ります。
主に椀や盆などに使われる技法となっています。
:青漆・・あまり見かける事の少ない青漆は、深い青緑色をしています。
藍草から取り出した藍蝋などを加えたり、黒漆に黄漆などを混ぜるなどして作られ、その美しい色合いから後に伝統色として定着しました。
また、江戸時代に描かれた風俗雑誌の森貞慢稿には合羽の色に使われている事が紹介されています。
:布摺・・言葉の通り布を筋に貼り漆を刷り込み布の模様を浮き立たせる技法で、ある偶然の出来事から生まれました。大家漆工房の大家忠弘さんが布を漆で貼る工程途中に布の下に糸が入ってしまい糸の跡が付きました。これを見て布で模様をつけたらおもしろいと考え布摺技法が生まれたと言われています。
:春慶・・天然の木目の美しさをそのまま活かした透き漆を用いて作られる春慶は、盆や曲物などに多く軽くて丈夫なのが特徴です。
また飛騨春慶、能代春慶、栗野春慶などの日本三代春慶塗と呼ばれる物も存在します。
その中でも飛弾春慶は通商産業省の伝統的工芸品に指定されています。