今回、いわの美術がお買取致しましたのは、福本積應の茶掛です。
茶掛本紙と共箱の箱書に「前大徳積應叟」と記されていますが、このうち「前大徳」とは、大徳寺僧侶の位を示しています。大徳寺僧侶の位には、再住位・前住位など八位まであり この内の「前住位」にあたるものが「前大徳」なのだそうです。この位を受けると、本山にて一日だけ「大徳寺住職」になる改衣式、法要や披露などを行い、その後、晴れて墨跡などに「前大徳」と書くことが許されるそうです。その次に書かれた「積應」は、この茶掛を書した「福本積應」を示し、「叟」は翁と同じ意味で、書家が自分のことを謙遜してよく使う字となっています。
茶掛の「薫風自南来」は、禅語として「くんぷうじなんらい」と棒読みされ、漢詩風には「くんぷうみなみよりきたる」と読まれます。この「薫風自南来」の茶掛は「薫風」ということから、5月の初風炉の茶席に一番多く掛けられてる禅語とされます。
もとは、人皆苦炎熱(人は皆炎熱に苦しむ)我愛夏日長(われは夏日の長きを愛す) 薫風自南来(薫風南より来たり)殿閣生微涼(殿閣微涼を生ず) のうちの一節で、始めの2句は文宗帝の作、後の2句は柳公権の作です。この2句は対句の茶掛として珍重されています。
この詩を禅語として、採り上げたのは宋時代の圜悟克勤禅師です。「薫風自南来、殿閣生微涼」の解釈は、人により異なりがありますが、善も悪も、是も非も、得も失も、悟りも迷いも、すべて洗いざらい薫風に吹き払われて、そこに涼味を体得することが出来ましょう、といった無心の境地を示したものです。
茶室の床に掛ける軸である茶掛には、茶の湯の背景に禅の教えが存在し、水墨の花鳥画小品のほか、今回お買取のような書の軸物が多く使われます。
茶掛の鑑賞は、本紙からはじまり、天地(上下)などを経て、軸先、最後には箱や箱書までも鑑賞の対象となっていますので、買取査定の際は、茶掛の作者、本紙の内容、状態だけでなく、軸先や共箱も買取評価のポイントとなります。
シミや汚れなどがない茶掛は高価買取につながりやすく、また軸先に象牙などが使われていますと買取評価にプラスに働きます。
茶道具を多く扱ういわの美術では、茶掛の買取実績も豊富です。使うご予定のない茶掛、しまったままになっている茶掛がございましたら、いわの美術までお電話・メールにてご連絡ください。